おはなしのおはなし

「あー、あの、道に迷いましたか?」

「はい、とげぬき島を目指しているのですが……」

「そうでしたか、災難ですね。でもね……ここにあなたはいてはいけない、はずなんですよ」

「よく分からないのですが……」

「大丈夫、ちょっと待っててくださいね」

私は何行かタイプし、F5キーを叩いた。

「よし、通った。何が『小説家になれ!』だよ、もっと『カケヨメ』を見習えよ……」

電子書籍の表示エンジンにバグがあった。とげぬき島を目指していた彼が、見出しを経由して目次に出てしまっていた。

彼は礼をいう機会をなくしたまま、コンテンツの海で何ごともなくおはなしを続けている。

(藤原 惟)