MJBの缶があるから簡単には死ねない

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パンツマンとよばれる、ふざけた名前の動画投稿者がいる。

「独身中年男性が淡々と料理を作って食べるだけ」という動画を出している。 合計600本以上をアップロードしており、ニコニコ動画の料理タグでは根強い人気がある。

絵面はみすぼらしいが癖になる。それがパンツマンの魅力だ。

高齢化と老朽化が進む団地で、使い古したテーブルや押し入れに囲まれながら、おっさんが料理を作り、ぶつぶつ言いながら飯を食う。 それだけの動画が何万も百何万もの再生数を数える。

彼は砂糖をMJBの缶に入れている。コーヒー粉が入っていたその缶は、おそらく10年や15年近くは活躍している。 黄色い蓋は汚れ、ボディはさびている。

そのMJBの缶が、かっこよく見える。黄色とグリーン、力強い「MJB」という文字。 ただの缶なのに、安心感がある。

最近まで、コーヒー用にきっちり閉まる密閉容器がほしかった。ニトリに行けばよかったが、タイミングが合わない。

ある日、成城石井でそのMJBを見つけた。340gで300円ちょい。安い。

サイズがちょうどいい。「かわいいなあ」と両手で抱え、気持ち悪い客となっていた。 密閉性能はたぶん良くない。それでもいい。

MJB、中身の粉は、ふつう。ふつうがほしい。安定の味。

ひととおり缶を空にし、別のコーヒー粉を詰め替える。400gの粉だと、60g分が入らない。 そういうはみ出しをどうにかしていくのも楽しい。

最近は、気分が落ち着かなかったり、不安になることも多い。ときどき、生きる意味も失いかける。

MJBの缶は心強い。パンツマンはあれに砂糖を入れ続けたのだから、きっと長く使える。MJBのおかげで、根拠のない自信が出る。

根拠のない自信というのは、無から湧き出るものではない。

愛着のもてるものを、身にまとったり、身近に置いたり、買ったり、飼ったりする。 そうしていくうちに、自分自身の中に愛着のあるものを見つけられたら、あとは自走できる。

パンツマンは最近、結婚した。今では夫婦でご飯を食べている。 そういう緑茶をじっくり味わうような幸せが、私を今日も生かしている。

藤原 惟


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