学術系の「論理学」とビジネス系の「ロジカルシンキング」の違い

私はこのような「論理学の入門」記事を書きました。

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しかし、ビジネスパーソンの方が先ほどの記事をいきなり読むと、「あれっ?」と思われるかもしれません。

ここでは、その疑問の元である、学術系の「論理学」とビジネス系の「ロジカルシンキング」の違いを明らかにしておきます。

ビジネスパーソン視点: 論理学???

ビジネスパーソンの方であれば、論理と聞いて「ロジカルシンキング」という言葉を連想する人も多いと思います。具体的には

  • MECE
  • So What / Why So
  • ピラミッドストラクチャ
  • ロジックツリー
  • フレームワーク

などのキーワードで語られる一連の知識体系をイメージする方がいらっしゃると思います。

一方、「論理学の入門」として書かれた拙著記事(上記)では、「ロジカルシンキングっぽい話」はほとんどありませんでした。 むしろ「なにやら難しそう」と思われたかもしれません。

学術視点: ロジカルシンキング???

逆に、学問をやる上で論理学を学んだ方から見ると、書店で見かけた「ロジカルシンキング」と名の付いた本を見て面食らった方もいらっしゃるかもしれません。私もその一人です。

具体的には、「ロジカルシンキング」の本を一通り読んでも「論理の道筋が通っている気分がしない」「騙された気分になる」感じがします。少なくとも私はそう思いました。

論理学とロジカルシンキングの違い

実は、

  • 論理学: 学問としての哲学や数学を基盤としている
    • アリストテレスが創始した
    • フレーゲ、ラッセルらが数理論理学を立ち上げ厳密化した
  • ロジカルシンキング(論理思考): マッキンゼーを中心としたコンサルタント出身の著者が創始し広めてきた

という違いがあります。

「目的の違い」という観点では

  • 論理学: 学問における議論をする土台や約束事、数学や科学の理論の大前提となる土台
  • ロジカルシンキング: ビジネスやコンサルティングにおける、実用的な問題解決、説得、根拠付け

という違いがあるようです。

日本における「ロジカルシンキング」のルーツ

日本における「ロジカルシンキング」は、マッキンゼー出身の照屋華子と岡田恵子による『ロジカル・シンキング―論理的な思考と構成のスキル』という書籍がきっかけで広まりました。

ロジカル・シンキング―論理的な思考と構成のスキル (Best solution)

ロジカル・シンキング―論理的な思考と構成のスキル (Best solution)

また、MECEやピラミッドストラクチャなどの概念は、バーバラ・ミント『考える技術・書く技術』から出てきたようです。

考える技術・書く技術―問題解決力を伸ばすピラミッド原則

考える技術・書く技術―問題解決力を伸ばすピラミッド原則

日本の書店で出回っている「ロジカルシンキング」と名の付いた本の多くが、だいたい上記2冊をルーツとするようです。 (例えば、最近見かける マンガでわかる! マッキンゼー式ロジカルシンキング (まんがでわかるシリーズ) も。)

トゥールミン・モデル

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(出典: 4.2 トゥールミンの三角ロジック | 向後研究室教材サイト)

また、主に文系の学問やビジネスなど、ディベートや論証をする分野で最近好まれる論理形式として、トゥールミン・モデル(通称・三角ロジック)があります。これは

  • 主張 (claim)
  • ワラント/論拠/理由付け (warrant)
  • データ/根拠/事実 (data)

の3つを基本として論理を組み立てる方法です(実際はもっと複雑)。このトゥールミン・モデルを指して「ロジカルシンキング」と呼ぶ場合もあります。

議論の技法

議論の技法

議論の技法

さらに、このモデルが「マッキンゼー流ロジカルシンキング」におけるピラミッドストラクチャ・フレームワークと暗黙に組み合わされるケースもあるようです……。

まとめ

以上をまとめると

  • (狭い意味での)論理学: 哲学や数学・科学に適する論理
  • ロジカルシンキング
    • マッキンゼー流ロジカルシンキング: マッキンゼー出身者が創始した、ビジネスにおける問題解決・説得のためのツール
    • トゥールミン・モデル: ディベート・論証に適する論理

ということです。


「論理学」と「ロジカルシンキング」の違いに関する詳しい話は、下記にまとまっているので参考にしてみてください。

ロジカルシンキング - Wikipedia

藤原 惟